季刊オーディオアクセサリー196号 掲載記事紹介
オーディオファンに向けた、こだわりの2枚組<アルティメイト・サウンド・シリーズ>
クラシック音楽レーベル「アールアンフィニ」が徹底的に”音”志向な音楽ソフト<アルティメイト・サウンド・シリーズ>を立ち上げた。音そのものをリアルに録り、コンプレッサー、リミッターなどは一切使わず、最終マスタリングはコンクリート・バックロードホーンを設えた超広域再生を実現するスタジオで行う。
このアルバムには2本のマスターテープが存在し、全く同じマイク・セッティング及び全く同じ採用テイクによる同一レコーディングのマスターによる2枚組仕様となっている。ディスクA、ディスクB双方を聴きくらべることにより、ヴォーカルやギターの響き、奥行きやソノリティーにその違いを感じることができる<アルティメイト・サウンド・シリーズ>。
クラシック音楽の声楽家によるリサイタルというと、ピアノ伴奏で歌うイメージが強いかもしれない。だがそれはピアノが改良を繰り返しながら普及していく18世紀半ば以降の話。それ以前、このアルバムでいえばモンテヴェルディ、カッチーニ、リュリが活躍したバロック時代は、リュートやビウエラ等といったギターの親族にあたる楽器が歌を支えることも多かった。そうしたバロック時代などを当時の演奏スタイルに基づいて演奏する“古楽”のスペシャリストである鈴木美登里に師事しながらも、“現代”のポップスまで自然に歌いこなせるのがソプラノ歌手の奥脇泉だ。言葉を大事にしながらも語りに寄りすぎず、長いフレーズで旋律の美しさも伝えることが出来るのが彼女の美徳である。驚かされるのは古楽で学んだ自然な音楽作りを拡張してポップスを歌う際、原曲のスタイルと自らの歌唱スタイルのあいだで、どちらの良さも活かせる絶妙なポイントを見出してしまう抜群のセンスだ。
古楽から現代のポップスまで、実は数百年にわたる異なる様式の音楽にもかかわらず、そうは思わずに聴けてしまうのはギター奏者の河野智美に負うところも多い。ギターならではの粒立ちの良さ、ひとつひとつの音の表現力の豊かさもありながら、全体としてはリュートのような純度の高い響きを保っているからこそ、奥脇の音楽性を更に引き立てる。そして細部まで瑕疵のない驚くほど丁寧な演奏でありながら、停滞・弛緩することも過度に音楽をドラマティックにし過ぎることもなく、徹底して誠実に描き出す。私たち聴き手が流し聞きすることなく、集中して耳をそばだてると、余計なものを削ぎ落としているからこその楽曲の本質、音楽の本質が聴こえてくる。純粋無垢ではあっても、単なる癒やしではないのだ。調味料やスパイスは最低限で、素材からじっくりと引き出した味わいを堪能できるアルバムだ。(小室敬幸)
2つのマスターテープについて
このアルバムでは、全く同じマイク・セッティング及び全く同じ採用テイクによる同一レコーディングのマスターによる2枚組仕様となっています。ディスクA、ディスクB双方をお聴き頂ければ、ヴォーカルやギターの響き、奥行きやソノリティーにその違いを感じて頂けるのではな いでしょうか。 ディスクAとディスクBの違いは、レコーディング後のミキシング(ミックスダウン = 各マイク のバランスや音質を調整すること)の違いのみです。レコーディング現場のマイク・セッティングや採用した演奏テイクは全て同一です。ここではあえてどのようなミキシングを行ったのかは割愛させて頂きますので、リスナーの皆様にはどちらの音がお好みか比較して頂けますと幸いです。
どちらが良い悪いということではなく、この違いは概ね好みの範疇になるのではないかと思います。実際このアルバムの制作現場では、ヴォーカルの奥脇泉さんとクラシックギターの河野智美さんの間で意見が真っ二つに割れ、お二人共こだわりが強いためこのような異例の仕様となった次第です。 かなりマニアックな企画になりプレスコストもかかるためレーベルを預かる者としては失格かもしれませんが、アルティメイト・サウンド・シリーズは特に音にこだわりのあるリスナーやオーディオ・ファンの皆様に向けたシリーズなので、このような同一レコーディングで2つの異なるミキシング・アプローチを比較してお聴き頂くのも、シリーズならではの醍醐味かと思い企画させて頂きました。
ここでは、片方はクラシック音楽で採用されることの多いミキシング・アプローチ、もう片方はポピュラー音楽で採用されることの多いミキシング・アプローチであるということだけ申し上げておきます。ディスクAもディスクBも同じ山の頂きを目指しますが、片方は東の麓からもう片方は西の麓からアプローチしています。そしてそのアプローチは全く異なる手法なのです。
「音」は人それぞれ好みが千差万別であり、それが決して良い悪いではなく、好きかそうでないかということなのではないでしょうか。だからこそ「音」には絶対評価はなく趣味性がとても深いのだと思います。このアルバムではその趣味性について、いつもより少しだけ深く感じて頂ければ制作者としては望外の喜びです。(アールアンフィニ・レーベル代表 武藤敏樹 )
■録音
録音:2024年6月11日 & 12日
DSD11.2MHz ハイレゾ・レコーディング
DXD384KHz ハイレゾ・ポストプロダクション
レーベル:アールアンフィニ